土井敏邦Webコラム:日々の雑感 136:ガザ住民への電話インタビュー [1]

http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20090119.html
特に重要と思われるQ&Aをピックアップ。

2009年1月12日
イブラヒム・ディラウィ(ラファ在住の学校教員)

(Q・どこへ避難しているのか)

 親族や友人たちの家へだ。ラファに借りられる部屋や家などないから。もう2年間もセメントが入ってきていない。家の建設などまったく何もできない状態だ。
 今はとても寒い。破壊された家を建て直すこともできない。だから人びとはテントの中や親族の家で暮している。

(Q・電気は?)

 ラファでは電気はまだいい。12時間電気がきて、次の12時間は停電する。というのは私たちはエジプトの電力を使っているから。しかしガザの他の地区では、電気がくるのは1日にほんの5、6時間だけだ。

(Q・食べ物は?)

 多くの食べ物はラファで見ることができない。食料がとても不足している。とくに小麦粉と缶詰、豆類、ミルクなどだ。これらはスーパーマケットなどで買うのだが、しかし今は店にそれらがない。
 今日、UNRWAが1、2袋の小麦粉を配布した。それは難民だけではなく、全住民に配布された。食べ物の一部はエジプトとの境界から入ってきている。しかしとても危険だ。

(Q・生徒たちは勉強できるのか)

 学校を再開するのはとても難しいと思う。何千という家族が学校を避難場所に使っているからだ。彼らには家がない。1軒の家が爆撃されると、周囲の数軒が破壊される。今ラファには4つの学校があるが、すべて避難場所に使われている。家の再建も難しい。

(Q・住民のハマスに対する感情はどういうものか)

 両方がいる。ハマスの支持者とその政策に反対する勢力だ。しかし双方ともイスラエルに対して激しい怒りをもっている。イスラエルハマスではなく、住民を攻撃しているからだ。攻撃しているのはハマスではなく、イスラエルが攻撃しているのだ。イスラエルハマスを攻撃するべきで、民間人ではないはずだ。なぜイスラエルは民間人を攻撃するのか。攻撃しているのはハマスのメンバーではなく民間人なのだ。これが重要な点だ。

(Q・ハマスが攻撃するから、その報復としてイスラエル軍に爆撃されると思ってはいないのか)

 たしかにそう考える者もいるだろう。ハマスがロケット弾攻撃をするから、イスラエル軍は攻撃するのだと。しかしイスラエル軍ハマスがロケット弾を放つ前から攻撃していたのだ。何度もだ。その主張はイスラエル側の攻撃を「正当化」するためのものだ。

(Q・住民はどんな感情を抱いているのか)

 ある者はこの状況で、イスラエルに対して怒りを抱いている。率直に言って、中にはハマスに怒りを抱くものもいた。またある者は恐怖に襲われ何もすることができず、ガザからエジプトなど他の地域に脱出したいと願っている。とても困難な状況だ。
 エジプトに逃げたいと思っても、国境は閉鎖されたままだ。住民が国境を強引に開けようとした。すると住民はエジプトの兵士に銃撃され殺された。イスラエル軍はまた海からも砲撃している。

(Q・イスラエルハマスを殲滅し、ガザ地区を再びアブ・マーゼンの支配下にしようとしているのだろうが、ガザの住民はそれを受け入れるだろうか)

 私は、住民はどんなことでも受け入れると思う。この攻撃はとても困難だからだ。受け入れるか、拒絶するかの選択はできない。イスラエルハマスが戦争を続けるなら、何のいい結果も生まれない。住民は、アブ・マーゼンだろうと、国際部隊だろうと、どんなものも受け入れる。ただ住民はこの攻撃を止めたいと願っている。

(追記)

http://www.doi-toshikuni.net/j/column/20090121.html

日々の雑感 138:
ガザ住民への電話インタビュー [3]
2009年1月12日の状況

2008年1月21日(水)

バッサムは、ガザのNGOパレスチナ人権センター(PCHR)」のスタッフで、ジャバリア難民キャンプの出身。彼とその家族は現在、ガザ市内のアパートで暮しているが、両親や兄弟、親族などファミリーは今もジャバリアで暮している。
2009年1月12日
バッサム・エルアクラ

(Q・住民の精神状態はどうなのか。ガザの人びとの雰囲気はどうなのか)

私は今、人権団体でトレーニングの仕事をしているが、たとえば、人権や民主主義がいいものであるということをどうやって住民に説得できるだろうか。人びとは、毎日、住民が殺され血を流しているのを目撃している。こんな状態でも、「イスラエルは中東で唯一の素晴らしい民主主義国家」だとか「アメリカは世界でもっとも民主的な国」だと言われ、また世界中で「民主主義」や「人権」の重要性が叫ばれている。しかしガザで起こっていることに、つまりパレスチナ人の人権が毎日侵害され、人権宣言の1文1文が侵害されている今のガザの状況にアメリカも世界も押し黙り何も行動を起そうとしない現状のなかで、明日自分が仕事に戻ったときに、どうやってガザの人びとに「人権が大切だ」と説得できるだろうか。

ガザで毎日起こっていることに住民は苛立ち、怒り、失望している。それはパレスチナ人が招いていることではなく、全世界が引き起こしていることなのだ。毎日、イスラエルパレスチナ人にやっていることに何もしようとはしないのだ。なぜか。アメリカは「民主主義」と「人権」の名の元にイラクに侵攻したのだ。

私は今、人権団体として住民に言うべき答えを探している。明日、大学の学生を対象に人権についてのトレーニングを始める予定だ。しかし私は人権についてどう説明できるだろうか。私は何ができるだろう。私はその答えがわからない。そんな状況を想像してほしい。